任意後見契約は、将来判断能力が低下したときに備え、自分が信頼できる人に生活や財産管理を任せられる仕組みです。元気なうちにしか結べない、大切な“未来への保険”といえます。
任意後見契約は、将来、判断力が低下したときに備えて「信頼できる身近な人」にお金の管理や生活に関する手続き(身上監護)を任せられる契約です。
自分のことをよく理解してくれている家族や友人にお願いできるのが大きな安心ポイントです。
法定後見(裁判所が後見人を選ぶ制度)と違い、自分で任せる人を選べるため、これまでの暮らし方や価値観を尊重したサポートを受けられます。
契約は公正証書で作成し、必要に応じて「どんな時に何をお願いするのか」を具体的に決めておくことで、将来の不安をぐっと軽くすることができます。
1.配偶者に先立たれ、今後の支援体制に不安があるとき
長年連れ添った配偶者に先立たれた後、一人で生活することに大きな不安を抱く方も少なくありません。任意後見契約を結んでおけば、元気なうちに信頼できる人を自分で選び、将来の支援体制をあらかじめ整えることができます。いざ判断力が落ちたときにも、その人が代わりに財産管理や手続きを担ってくれるため、「何かあっても大丈夫」という安心感が得られます。
2.家族と離れて暮らしていて、すぐに頼れないとき
子どもや親族と物理的に離れて暮らしている場合、万が一体調を崩したり、判断力が低下したりしたとき、すぐに助けを求めるのは難しいことがあります。任意後見契約を活用することで、近隣に住む信頼できる人や専門家にあらかじめ支援を頼むことができ、将来の不安を軽減できます。離れて暮らす家族にとっても、心強い見守り体制を築くことができます。
3.銀行の手続きや契約ごとが煩わしく感じてきたとき
高齢になると、銀行での各種手続きや契約書の確認など、細かく煩雑な作業がだんだんと負担になってきます。任意後見契約を結んでおくと、将来判断能力が低下した際に、あらかじめ選んだ後見人が財産管理を代行できる体制が整います。詐欺被害の予防にもつながり、本人の意思を尊重したうえで、スムーズな生活支援が可能になります。
4.将来施設に入ることを想定し、その準備をしておきたいとき
自宅での生活に限界を感じ、将来的に介護施設などへの入所を検討している方にとっても、任意後見契約は有効です。入所契約や費用の支払いなど、本人の意思確認が難しくなる前に、信頼できる人に手続きを任せられる体制を作っておけば安心です。希望に沿った施設選びや生活設計も後見人と共有できるため、老後の不安が大きく軽減されます。
5.身寄りが少なく、頼れる人が限られているとき
家族や親族が少ない方、あるいは疎遠になっている場合、将来の財産管理や生活支援を担ってくれる人がいないことが大きな不安要素になります。任意後見契約を活用すれば、身内に限らず信頼できる第三者や専門職後見人を自分の判断で選任し、備えることが可能です。「万が一」の時にも自分の意志を反映した支援体制が整うことは、非常に大きな安心材料になります。
6.法定後見になりたくない(知らない人に任されるのが嫌)とき
法定後見制度では、家庭裁判所が後見人を選ぶため、本人の希望とは異なる人が選任される場合もあります。知らない第三者に生活や財産を任せるのが不安だと感じる方にとっては、任意後見契約はとても有効です。自分で信頼できる人を選び、その人に後見をお願いできるので、「自分らしい人生を自分で決めておきたい」という想いを形にすることができます。
7.親の判断力が少しずつ落ちてきたと感じたとき
親がまだ元気でも、物忘れが増えたり契約内容の理解に時間がかかるようになると、将来の心配が現実味を帯びてきます。任意後見契約を結んでおけば、親の判断力が確かなうちに信頼できる家族や第三者を後見人として決めておくことができます。これにより、後々の手続きや財産管理をスムーズに引き継げるため、子ども世代にとっても大きな負担軽減につながります。
8.親の生活や意思決定を見守る仕組みがほしいとき
親が一人暮らしをしていたり、離れて暮らしていると、生活の変化や意思の確認がしづらくなります。任意後見契約には「見守り契約」と組み合わせる活用法もあり、定期的に訪問や連絡を行うことで、親の生活や意向の変化を早期に把握できます。家族としても見守り体制があることで安心でき、必要に応じて任意後見を発効させる準備も整います。
9.「もしものとき」にどう動けばよいか不安があるとき
親が突然認知症になったり、倒れて意思表示ができなくなったとき、何から始めればよいか戸惑う家族も多いです。任意後見契約があれば、あらかじめ手続きを整えておけるため、混乱を最小限に抑えることができます。契約内容に沿って後見人がスムーズに対応でき、医療・施設・財産など多岐にわたる決断を安心して進めることが可能になります。
任意後見契約は、将来自分の判断能力が低下したときに備えて、信頼できる人に生活や財産の管理を託す制度です。元気なうちに「誰に」「どんな内容を」「どこまで任せるか」を決めておけるため、将来の安心につながります。
任意後見人にお願いできるのは、たとえば介護サービスの契約、入院・施設入所の手続き、年金や不動産の管理、税金や公共料金の支払いなど、日常的な財産・生活管理です。ただし、身の回りの世話そのもの(食事や掃除)は含まれません。
介護施設などと契約を結ぶには、本人の意思確認が必要です。認知症などで意思確認が難しい場合、施設側から「後見人が必要です」と言われることがあります。家族だけでは法的に代理できないため、任意後見契約を結んでおくと、家族が正式な代理人として契約をスムーズに進められます。
金融機関では、本人の認知症が疑われると口座を凍結することがあります。家族が代理で手続きをしようとしても、法的な代理権がなければ対応してもらえません。任意後見契約を結んでおけば、家族が正当に手続きを行えるようになり、生活費や医療費の支払いに困るリスクを防げます。
基本的には誰でも可能です。お子さんや親戚、信頼できる友人、または行政書士や司法書士などの専門職もなれます。ただし、本人の意思を尊重し、誠実に行動してくれる人を選ぶことが大切です。契約時には公証役場でしっかり内容を確認するので、安心して手続きを進められます。
遠方にいる家族がすぐに対応できない場合、近くに住む信頼できる人を後見人に指定しておくと安心です。また、家族との連携を図るために、定期的な報告を求める内容を契約書に盛り込むこともできます。任意後見は「生活の支援体制」を整える一つの手段です。
法定後見は認知症などで判断力が落ちたあと、家庭裁判所が後見人を決める制度です。一方、任意後見は元気なうちに「この人に任せたい」と自分で後見人を選べます。つまり、「知らない人に任せたくない」「信頼できる人に見守ってほしい」という方には、任意後見がより安心な選択肢です。
公正証書で契約するため、公証人の手数料(2~3万円程度)が必要です。また、後見人が専門職の場合は、月額報酬が発生することもあります。費用面が気になる場合は、家族や知人にお願いする方法や、事前に契約内容を調整することで対応できます。
1.売買・賃貸借契約ができない
たとえば親が施設に入居し、空き家になった実家を貸して入所費用に充てたいという場合でも、親本人が認知症で判断力が低下していれば、賃貸契約を結ぶことができません。たとえ家族が手続きを代行しようとしても、法的な代理権がなければ不動産会社や借主は契約に応じられず、空き家のままになってしまうことも。資産を有効活用できないばかりか、管理・防犯上のリスクも高まります。
2.預貯金の引き出し・振込ができない
銀行の預金は、原則として本人の意思に基づいて引き出す必要があります。認知症により判断力が低下すると、意思確認ができないとして取引が制限される場合があります。家族であっても口座から勝手に引き出すことは違法行為になりかねません。施設費の支払いや生活費の管理が滞る可能性もあるため、事前の委任契約や後見制度の準備が重要です。
3.施設や老人ホームとの契約ができない
介護施設や有料老人ホームへ入居する際には、本人の理解と同意に基づいて契約を結ぶ必要があります。認知症で判断能力がなくなっていると、施設側が「契約を締結できない」と判断し、入居を断られることもあります。家族が代わりに説明しても、法的代理権がなければ無効となるため、スムーズな入居のためにも早めの対策が必要です。
4.遺産分割協議に参加できない
親が亡くなった際に遺産を分けるには、すべての相続人の合意が必要です。しかし相続人の一人に認知症の方がいると、その人の意思確認ができず、協議自体が成立しません。成年後見人を選任する必要があり、手続きが大幅に遅れることもあります。財産が現金以外(不動産や株式など)の場合は、売却や管理にも支障が出るため、事前の準備が大切です。
5.任意後見契約の締結ができない
任意後見契約は、「将来、判断力が衰えたときに備えて支援をお願いする人を決めておく契約」です。契約を結ぶためには、内容を理解し判断できる能力が必要です。認知症を発症した後では、任意後見契約は結べず、本人の希望とは関係なく、家庭裁判所が選ぶ法定後見人に任されることになります。自分で選びたい方は、元気なうちに契約することが肝心です。
身の回りの整理(終活)を進めたい人
終活を進める中で、今後の判断能力の低下や病気に備えることはとても重要です。任意後見契約を結んでおけば、財産管理や施設入所の手続きなどを信頼できる人に託すことができ、将来の不安を一つひとつ解消しながら、自分らしい最期を迎える準備が整います。
障害や慢性疾患があり、将来に備えたい人
今は判断力があっても、病状が悪化したり、体調によって手続きが難しくなる可能性があります。任意後見契約を結ぶことで、財産管理や医療・福祉サービスの契約などを信頼できる人に任せられ、安心して治療や生活に専念できる支援体制が整います。
親が一人暮らしで心配が尽きない人
離れて暮らす高齢の親が一人で判断・手続きを続けるのは不安があります。任意後見契約を結んでおくと、子や信頼できる第三者が後見人となり、必要な時に生活や契約面で親を支えることができ、親子双方にとって安心できる備えになります。
遠方に住んでいて頻繁に帰省できない人
遠方に住んでいると、親の生活の変化や体調不良にもすぐに対応できません。任意後見契約を使えば、近くにいる信頼できる人や専門家に支援を任せられるため、距離的な不安が軽減され、万が一のときにも迅速で柔軟な対応が可能になります。
親の財産管理や契約手続きが心配な人
高齢になると金融機関での手続きや公共料金の管理などが負担になる場合があります。任意後見契約を結ぶと、家族や専門家が本人の意向をもとに必要な契約や手続きを代行でき、本人の財産を守りながら、家族の負担も軽減できます。
親が認知症になる前に備えたいと思っている人
認知症になってからでは後見人を自分で選ぶことができず、法定後見になってしまいます。任意後見契約は、親が元気なうちに信頼できる人に支援を依頼できる制度であり、将来に向けた備えとして極めて有効です。家族にとっても安心の仕組みです。