熟年離婚後の「おひとりさま」を襲った差し押さえ通知

相続・終活のよくある失敗パターンあるあるシリーズです。 これはフィクションですが、現実に十分起こりうるシチュエーションとオチです。ご自身や、身の回りのどなたかの状況と重ねながら読んでみてください。


【主人公の状況】


夫婦:なし(熟年離婚し、単身)
子供:あり(ただし疎遠)
年齢:73歳
終活状況:財産は自分名義のみ。離婚後の備えはしていない

事例:CASE12

 Eさん(73歳)は、3年前に長年連れ添った夫と離婚しました。いわゆる熟年離婚です。子育てを終え、夫の定年を機に、「残りの人生は自分らしく生きたい」と決意しての選択でした。財産分与で受け取った持ち家とまとまった預金があり、当面の暮らしに不安はありません。


  「これからは一人で、気ままに」。Eさんは、新しい生活を前向きに楽しんでいました。趣味の習い事に通い、友人とのお茶を楽しみ、穏やかな日々を送っていたのです。


 子供は一人いますが、離婚の経緯もあって、関係はすっかり疎遠になっていました。連絡を取り合うこともなく、お互いに距離を置いたまま。元夫とは、言うまでもなく没交渉です。Eさんは「もう誰にも頼らず、自分の力で生きていく」と心に決めていました。


 そんなEさんに、終活を考えるきっかけはありました。同窓会で、友人が「一人だからこそ、いろいろ準備しておかないとね」と話していたのです。Eさんも一瞬、心が動きました。けれど、「まだ元気だし、お金もある。困ったときに考えればいい」と、それ以上は深く考えませんでした。財産管理も支払いも、今は全部自分でできている。何の不自由もなかったからです。


 ところが、月日が流れ、Eさんに少しずつ変化が訪れます。


 物忘れが増え、約束や予定を取り違えるようになりました。郵便物を開けても、内容がうまく頭に入らない。やがてEさんは認知症を発症し、症状は静かに進んでいきました。一人暮らしのため、その変化に気づいて声をかけてくれる人は、誰もいませんでした。


 問題は、お金の管理でした。固定資産税や火災保険料、公共料金——これまで几帳面に払ってきた支払いを、Eさんは少しずつ忘れるようになっていったのです。督促状が届いても、その意味が分からず、机の上に積み上がっていくばかり。


 頼れる人は、誰もいませんでした。元夫は他人であり、疎遠な子も、母の異変に気づきません。Eさんの財産を管理し、支払いを代わりに担ってくれる人が、ただの一人もいなかったのです。


 そして、ある日。Eさんの自宅に、差し押さえの通知が届きました。長く滞納が続いた税金に、延滞金が膨らみ、ついに自宅が差し押さえの対象になってしまったのです。財産分与で得た、大切な住まいでした。


 お金はあったはずなのに、それを管理し、守る人がいなかったために——。「自分の力で生きていく」と決めたEさんの暮らしは、誰にも気づかれないまま、足元から崩れていったのです。

事例の解説

失敗の伏線

 このケースに潜んでいた失敗の原因は、次のとおりです。

  • 「困ったときに考えればいい」と、備えを後回しにした
  • 一人暮らしで、異変に気づいてくれる人がいなかった
  • 認知症になったとき、財産管理を担う人を決めていなかった
  • 元夫・疎遠な子と、いざというとき頼れる関係がなかった

失敗の解説

 このケースが示すのは、「おひとりさま」には、二重の備えが必要だということです。
 ひとつ目の落とし穴は、異変に気づく人がいないことです。家族と同居していれば、物忘れや支払い忘れに誰かが気づけます。しかし一人暮らしでは、認知症が静かに進んでも、声をかけてくれる人がいません。気づいたときには、事態が深刻化していることが多いのです。


 ふたつ目は、財産管理を担う人がいないことです。認知症で判断能力が低下すると、本人は適切にお金を管理できなくなります。家族がいれば手伝ってもらえることもありますが、Eさんのように頼れる人がいないと、支払いが滞り、誰も気づかないまま延滞金が膨らんでいきます。


メモ:熟年離婚後の「頼れる人」事情

  • 元配偶者は法律上の他人(相続権も扶養の関係もない)
  • 疎遠な子は、異変に気づかない・関わらないことがある
  • 結果として、いざというとき頼れる人が誰もいない状態になりやすい

→ だからこそ、元気なうちに「頼る仕組み」を契約で作っておくことが重要


 特に注意したいのが、認知症対策の代表である成年後見制度も、判断能力が低下する「前」と「後」で使える備えが違うという点です。元気なうちなら、自分で支援者を選んで契約できますが、判断能力を失った後は、家庭裁判所に申し立てる法定後見が中心になり、選択肢が大きく狭まります。


注意点

  • 一人暮らしは、認知症の異変に気づかれにくい
  • 財産管理を担う人がいないと、支払い忘れ→延滞金→差し押さえに至ることも
  • 元配偶者・疎遠な子には、当然には頼れない
  • 多くの備えは、判断能力があるうちにしか準備できない

 なお、支払い忘れへの対応や延滞・差し押さえの扱いは、状況によって異なり、ケースによるところもあります。困ったときは、早めに専門家や自治体の窓口へ相談されることをおすすめします。

この事例を成功させる解決策

 このケースは、Eさんが元気なうちに、3つの契約で「頼る仕組み」を作っておけば、防ぐことができました。家族に頼れない方ほど、こうした契約が心強い支えになります。


見守り契約で、異変を早期に発見する — 専門家などが定期的に連絡・訪問し、生活の様子を見守る契約です。一人暮らしでも、支払い忘れや認知症のサインを早期に発見してもらえます。Eさんのように「誰にも気づかれない」事態を防ぐ、最初の砦になります。


財産管理委任契約で、支払いや手続きを任せる — 判断能力はあるものの、外出や手続きが負担になってきたときに、信頼できる人へ財産管理や支払いを任せる契約です。固定資産税や保険料の支払いを代わりに担ってもらえるので、滞納による延滞金や差し押さえを防げます。


死後事務委任契約で、亡くなった後まで備える — おひとりさまの場合、亡くなった後の葬儀・納骨・各種手続きを担う人がいないことも大きな問題です。生前にこれらを信頼できる人へ委任しておけば、死後の手続きで誰かに迷惑をかけることもなく、自分の希望どおりに見送ってもらえます。


ポイント:おひとりさまの備えのメリット

  • 見守り契約で、一人暮らしでも異変を早期に発見できる
  • 財産管理委任で、支払いを任せ、延滞や差し押さえを防げる
  • 死後事務委任で、亡くなった後の手続きまで安心して託せる
  • 家族に頼れなくても、信頼できる人に「頼る仕組み」を作れる
  • 「自分らしく生きる」を、最後まで安心して貫ける

 これらの契約は、いずれも判断能力があるうちにしか結べません。「まだ元気だから」「困ったときに考えればいい」と後回しにしているうちに、その機会が失われてしまうのが、おひとりさまの怖いところです。状況に応じて、将来の判断能力低下に備える任意後見契約とあわせて検討すると、さらに安心です。どの備えが合うかは事情によって異なりますので、専門家へ相談されることをおすすめします。

まとめ

 「もう誰にも頼らず、自分の力で生きていく」——その自立した思いは、とても素敵なものです。けれど、人はいつか、誰かの手を借りなければならないときが来ます。元気なうちに「頼る仕組み」を用意しておくことは、自立をあきらめることではなく、むしろ自分らしい暮らしを最後まで守るための備えなのです。


 特に、熟年離婚や死別でおひとりさまになった方、お子さんと疎遠な方、いざというとき頼れる家族がいない方にとって、見守り契約財産管理委任死後事務委任といった備えは、決して「まだ早い」ものではありません。


 備えができるのは、ご本人がしっかりしている「」だけです。「自分らしく生きる」という選択を本当の意味で全うするために、一度立ち止まって考えてみてください。少しでも気がかりなことがあれば、どうかお早めにご相談ください。