認知症のパートナー、見知らぬ後見人に任されたケース
長年連れ添った同性パートナーでも、認知症になると法的に支えられず、見知らぬ後見人に任される事例を通じて、任意後見・見守り契約・遺言書で早めに備える大切さをわかりやすく紹介しています。

認知症のパートナー、見知らぬ後見人に任されたケース

これは、終活・相続のよくある失敗パターンあるあるシリーズです。登場人物はフィクションですが、現実に起こりうるシチュエーションとオチを描いています。「長年一緒なら、いざというとき任せてもらえる」と思っている方こそ、ぜひご自身や身近な方の状況と重ねながら読んでみてください。


【主人公の状況】


夫婦:なし(同性パートナーと同居・法律上の婚姻はできていない)
子供:なし
年齢:Cさん(74歳)・パートナーDさん(71歳)
終活状況:「二人で支え合えばいい」と考え、法的な備えはしていない

事例:CASE

 穏やかな春の午後。Cさん(74歳)とパートナーのDさん(71歳)は、二人で近所の公園を散歩していました。30年以上を共に過ごしてきた、仲のよいカップルです。お互いを誰よりも理解し、長く支え合ってきました。


 二人は同性のパートナー同士です。法律上の結婚はできませんが、「私たちは、もう立派な夫婦のようなもの」という気持ちで暮らしてきました。


 最近、Cさんは少し物忘れが増えてきたことが気がかりでした。Dさんも、自分自身の体力の衰えを感じています。「二人とも、だんだん歳をとってきたね」。そんな話を、散歩の途中でぽつりと交わしました。


 「もし、どちらかが認知症になったら……」。Dさんが口にすると、Cさんは笑って言いました。「そのときは、お互いが面倒を見ればいいさ。30年も一緒なんだから」。


 二人とも、それで安心していました。「長年連れ添っているのだから、いざとなれば、当然お互いが代わってあげられる」。そう信じていたのです。


 知人から「同性カップルこそ、任意後見をしておいたほうがいい」と勧められたこともありました。けれど、「手続きが難しそう」「まだ元気だから」と、ずるずると先延ばしにしていました。


 それから2年後。Cさんの認知症が、思いのほか早く進みました。一人での外出が難しくなり、やがて施設への入所を検討することに。


 ところが、いざ手続きを進めようとして、Dさんは大きな壁にぶつかります。


 Cさん名義の口座から施設費を払おうとしても、「ご本人の判断能力が確認できないため、ご家族でも引き出せません」と止められました。施設の契約も、Cさんの代わりにDさんが結ぶことはできません。


 「私が、代わりにやります。30年連れ添ったパートナーですから」。Dさんがそう訴えても、答えは同じでした。「法律上のご家族でないと、代理はできません」。


 Cさんには、法律上の相続人にあたる遠方のきょうだいがいました。けれど、長く交流はありません。結局、家庭裁判所への申し立てを経て、面識のない専門職(司法書士)が、Cさんの成年後見人に選ばれました。


 以後、Cさんの財産管理も、施設との契約も、すべてその後見人が取り仕切るようになりました。30年連れ添ったDさんは、肝心なことに一切関われず、蚊帳の外に置かれてしまったのです。


 「いちばんそばにいたのは、私なのに」。Dさんは、ただ見守ることしかできませんでした。

事例の解説

失敗の伏線

  • 「長年連れ添っているから、お互いが代われる」と思い込んでいた
  • 同性カップルは、法律上互いの代理ができないことを知らなかった
  • 任意後見を勧められながら、「まだ元気」と先延ばしにした
  • 認知症は思いのほか早く進むことを想定していなかった

失敗の解説

 今回のつまずきの根っこは、「長年連れ添っていれば、いざというとき自然に代われる」という思い込みでした。


 実は、法律上の配偶者であっても、相手が認知症になったからといって、自動的に代理人になれるわけではありません。ましてや、法律婚のできない同性カップルの場合、互いに「家族」としての立場がないため、代理は一層認められにくくなります。


 相手が認知症になった後では、本人が「この人に任せたい」と新たに契約することもできません。残された道は、家庭裁判所に申し立てて成年後見人を選んでもらうことだけです。


メモ:認知症になった後の「成年後見」の流れ

  • 判断能力が低下すると、の財産は本人のためにしか使えなくなる
  • 財産管理や契約を代わって行うには、成年後見人の選任を申し立てる
  • 後見人は本人やパートナーが希望しても、その通りになるとは限らない
  • 面識のない専門職が選ばれることが多い
  • 申し立てから選任まで数か月かかることもある

→ 「長年連れ添った相手が関われない」という事態が起こり得る


 Cさんのケースでは、認知症が進んだ後だったため、Dさんを支援者に指定する方法が、もう残されていませんでした。だからこそ、面識のない専門職が後見人となり、Dさんは蚊帳の外に置かれてしまったのです。


注意点

  • 法律婚がなくても夫婦同然だが、互いの代理権は当然には認められない
  • 一方が認知症になると、もう一方は財産管理も契約代理もできない
  • 認知症になってからでは、支援者を自分で選ぶことができない
  • 成年後見人は裁判所が選び、パートナーが選ばれるとは限らない
  • 結果として、長年連れ添った相手が肝心な場面に関われないおそれがある

 なお、後見人に誰が選ばれるか、パートナーがどこまで関われるかは、状況によって異なります(ケースによる)。具体的な見通しは、行政書士などの専門家に相談するのが確実です。

この事例を成功させる解決策

 Cさん・Dさんのような事態は、二人とも判断能力があるうちに備えておくことで防げました。高齢の同性カップルには、次の3つの組み合わせがとくに有効です。


① 任意後見契約(相互)を結んでおく
 任意後見契約とは、判断能力があるうちに「将来、判断能力が低下したら、この人に支援を任せたい」と、自分で支援者を選んでおく契約です。公正証書で作ります。


 お互いを相手の任意後見人に指定し合う(相互の任意後見ことで、一方が認知症になっても、もう一方が正式な代理人として財産管理や契約を担えるようになります。これなら、見知らぬ専門職に取り仕切られることもありません。


 ただし、二人とも高齢で、同時に支えきれなくなる心配もあります。そこで、予備的に信頼できる第三者(専門職など)も後見人に加えておくと、より安心です。


② 見守り契約で「始めどき」を見極める
 見守り契約とは、専門家などが定期的に連絡・訪問し、生活や健康の変化を早めに察知する契約です。これがあれば、任意後見を実際にスタートさせるベストなタイミングを、専門家が見極めてくれます。認知症の進行を見逃さずに済みます。


③ 遺言書でパートナーへ財産を遺す
 同性パートナーには相続権がありません。何もしなければ、財産は疎遠なきょうだいなどへ流れます。「全財産をパートナーへ遺贈する」という遺言書を作っておけば、長年連れ添った相手に財産を残せます。


ポイント:3つの備えを組み合わせるメリット

  • 任意後見契約(相互)で、認知症になってもパートナーが正式に支援できる
  • 見知らぬ専門職に取り仕切られる事態を避けられる
  • 見守り契約で、支援を始めるタイミングを逃さない
  • 遺言書で、相続権のないパートナーにも財産を遺せる
  • いずれも判断能力があるうちにしか始められないため、早めの準備が肝心

まとめ

 「長年連れ添っているのだから、いざとなればお互いが代われる」――その思いは、ごく自然なものです。けれど、法律は、その関係を自動的には支えてくれません。とくに、法律婚のできない同性カップルでは、一方が認知症になると、もう一方は財産管理も契約代理もできず、見知らぬ専門職に取り仕切られてしまうおそれがあります。


 長年いちばんそばにいた相手が、肝心な場面で蚊帳の外に置かれる――こんなに切ないことはありません。


 だからこそ、高齢の同性カップルにとって、任意後見契約(相互)・見守り契約遺言書は、まさにマストの備えです。これらを整えておくことは、「お互いを、お互いの手で支え合える関係」を、法的にも確かなものにすることにほかなりません。


 大切なのは、二人とも元気な「」だからこそ動ける、ということ。「まだ元気だから」ではなく、元気な今だからこそ、二人で一度話し合ってみてください。進め方に迷ったときは、この分野に理解のある行政書士などの専門家に相談することで、お二人に合った形が見つかります。