相続・終活のよくある失敗パターンあるあるシリーズです。 これはフィクションですが、現実に十分起こりうるシチュエーションとオチです。ご自身や、身の回りのどなたかの状況と重ねながら読んでみてください。
【主人公の状況】
夫婦:なし(夫と死別し、ペットと二人暮らし)
子供:なし(親族はいるが疎遠)
年齢:76歳
終活状況:ペットの世話を口約束で姪に頼んでいるが、書面はない
Uさん(76歳)は、夫を亡くしてから、愛犬の「マロン」と二人きりで暮らしてきました。小型犬のマロンは、もう10歳。Uさんにとっては、子供のいない自分にとっての、かけがえのない家族でした。朝晩の散歩、ごはんの支度、寝るときも一緒——マロンがいるから、一人の寂しさも紛れる。Uさんの毎日は、マロンを中心に回っていました。
親族はいるものの、付き合いはほとんどありませんでした。たまに連絡を取るのは、亡くなった姉の娘である姪のSさんくらい。そのSさんも、忙しい中をたまに様子を見に来てくれる程度で、決して密な関係ではありませんでした。
Uさんの一番の気がかりは、「自分が先に逝ったら、マロンはどうなるのか」ということでした。年齢を考えれば、自分のほうが先に旅立つ可能性は高い。残されたマロンの行く末を思うと、胸が締めつけられます。
そこでUさんは、姪のSさんが訪ねてきたとき、それとなく頼んでみました。「私に何かあったら、マロンのこと、お願いできないかしら」。Sさんは「ええ、そのときは何とかしますよ」と、その場では応じてくれました。Uさんは、それで少し安心したのです。「Sが引き受けてくれるなら、マロンも大丈夫」。
ただ、その約束は、あくまで口頭でのことでした。Sさんが本当にどこまで本気だったのか、Uさんは深くは確かめませんでした。書面にするとか、世話にかかる費用をどうするとか、具体的なことは何も決めていません。「身内の口約束なんだから、わざわざ書類にするまでもない」。Uさんは、そう考えていたのです。
そして、ある日。Uさんは外出先で突然体調を崩し、そのまま帰らぬ人となりました。あまりに急な最期でした。
残されたマロンの問題が、すぐに持ち上がります。連絡を受けた姪のSさんは、Uさんの死を悼みつつも、いざ「マロンを引き取ってほしい」と言われると、ためらいました。実は、Sさんの家は賃貸でペット不可。家族にアレルギーの人もいて、犬を飼える状況ではなかったのです。「叔母さんには悪いけど、うちでは無理です」。Sさんは、引き取りを固辞しました。
口約束は、あったはずでした。けれど、それを裏づける書面も、世話の費用も、何の備えもありません。他の親族も疎遠で、誰も引き受け手が現れません。マロンの世話を法的に託された人は、ただの一人もいなかったのです。
行き場の決まらないマロンは、誰の手にも渡らないまま、結局保護施設へ送られることになりました。10歳という年齢では、新しい飼い主が見つかる保証もありません。Uさんが何より案じていた愛犬の未来は、最も望まない形になってしまったのです。「Sに頼んだから大丈夫」——その口約束は、マロンを守ってはくれませんでした。
このケースに潜んでいた失敗の原因は、次のとおりです。
このケースが示すのは、「ペットの将来」は、口約束では守れないという現実です。
まず知っておきたいのが、法律上、ペットは「物(財産)」として扱われるということです。飼い主が亡くなると、ペットも相続財産の一部となります。しかし、相続人がいなかったり、いても引き取りを望まなかったりすると、その行き場は宙に浮いてしまいます。
メモ:ペットと相続の関係
→ 確実に託すには、書面による正式な取り決めが必要
Uさんは姪に口頭で頼んでいましたが、口約束には法的な拘束力がありません。引き受ける側にも事情があり、いざとなって断られれば、それまでです。Uさんのケースのように、住環境などの事情を確認しないまま「身内だから」と頼ってしまうと、肝心なときに引き受けてもらえないことがあります。
さらに見落としがちなのが、世話には費用がかかることです。エサ代、医療費、トリミング——ペットの一生には、相応のお金が必要です。引き受け手に費用の負担まで丸投げすれば、相手の負担は重く、断られる一因にもなります。
注意点
なお、ペットの引き取り先や費用の取り決め方は、状況によってさまざまで、ケースによるところもあります。確実にペットの将来を守りたい場合は、早めに専門家へ相談されることをおすすめします。
このケースは、Uさんが元気なうちに、法的な仕組みでペットの将来を託しておけば、防ぐことができました。ペットのための備えには、主に次の方法があります。
① 負担付遺贈で、世話を条件に財産を遺す — 負担付遺贈(ふたんつきいぞう)とは、「財産を譲る代わりに、一定の義務(負担)を果たしてもらう」という遺し方です。たとえば「マロンの世話をすることを条件に、Sさんに○○万円を遺贈する」と遺言に書いておけば、世話の費用とセットでペットを託せます。財産が付くことで、引き受け手も負担なく世話を続けられます。
② 死後事務委任契約に、ペットの引き渡しを盛り込む — 亡くなった後の事務を生前に委任する契約の中に、「自分の死後、マロンを○○へ引き渡す」という内容を入れておく方法です。引き渡し先や世話の方法を具体的に取り決めておけるため、確実性が高まります。近年は、ペットの引き取り・終生飼養を担う団体や専門サービスもあり、こうした先を指定することも可能です。
③ 見守り契約で、いざというときに備える — 一人暮らしの場合、飼い主自身が倒れたとき、ペットだけが家に取り残される事態も起こりえます。見守り契約で専門家などが定期的に連絡・訪問していれば、飼い主の異変を早期に発見でき、ペットの保護にもつながります。
ポイント:ペットのための備えのメリット
大切なのは、いずれの方法でも、引き受け手の同意と、費用の手当てをセットで整えておくことです。「頼んだつもり」で終わらせず、相手の事情も確認したうえで、書面で正式に取り決めておきましょう。ペットの将来を確実に守る設計は専門性が高いため、専門家へ相談されることをおすすめします。
「身内に頼んだから大丈夫」——その口約束だけでは、残されるペットの未来は守れません。法的な拘束力がなく、引き受け手にも事情がある。費用の手当てもなければ、いざというとき断られ、大切な家族が行き場を失ってしまうこともあるのです。
特に、ペットと暮らすおひとりさま、親族と疎遠な方、自分の死後のペットの世話が心配な方にとって、負担付遺贈・死後事務委任・見守り契約といった備えは、決して「まだ早い」ものではなく、愛するペットを守るために欠かせないものです。
備えができるのは、ご本人がしっかりしている「今」だけです。何より大切な家族の未来を守るために、一度立ち止まって、確実な形を整えてみてください。少しでも気がかりなことがあれば、どうかお早めにご相談ください。