残された愛犬の行き場が決まらなかったケース
残された愛犬の行き場が決まらず保護施設へ送られた事例を通じて、ペットの将来は口約束では守れないことや、負担付遺贈・死後事務委任・見守り契約で備える大切さをわかりやすく紹介しています。

残された愛犬の行き場が決まらなかったケース

相続・終活のよくある失敗パターンあるあるシリーズです。 これはフィクションですが、現実に十分起こりうるシチュエーションとオチです。ご自身や、身の回りのどなたかの状況と重ねながら読んでみてください。


【主人公の状況】


夫婦:なし(夫と死別し、ペットと二人暮らし)
子供:なし(親族はいるが疎遠)
年齢:76歳
終活状況:ペットの世話を口約束で姪に頼んでいるが、書面はない

事例:CASE17

 Uさん(76歳)は、夫を亡くしてから、愛犬の「マロン」と二人きりで暮らしてきました。小型犬のマロンは、もう10歳。Uさんにとっては、子供のいない自分にとっての、かけがえのない家族でした。朝晩の散歩、ごはんの支度、寝るときも一緒——マロンがいるから、一人の寂しさも紛れる。Uさんの毎日は、マロンを中心に回っていました。


 親族はいるものの、付き合いはほとんどありませんでした。たまに連絡を取るのは、亡くなった姉の娘である姪のSさんくらい。そのSさんも、忙しい中をたまに様子を見に来てくれる程度で、決して密な関係ではありませんでした。


 Uさんの一番の気がかりは、「自分が先に逝ったら、マロンはどうなるのか」ということでした。年齢を考えれば、自分のほうが先に旅立つ可能性は高い。残されたマロンの行く末を思うと、胸が締めつけられます。


 そこでUさんは、姪のSさんが訪ねてきたとき、それとなく頼んでみました。「私に何かあったら、マロンのこと、お願いできないかしら」。Sさんは「ええ、そのときは何とかしますよ」と、その場では応じてくれました。Uさんは、それで少し安心したのです。「Sが引き受けてくれるなら、マロンも大丈夫」。


 ただ、その約束は、あくまで口頭でのことでした。Sさんが本当にどこまで本気だったのか、Uさんは深くは確かめませんでした。書面にするとか、世話にかかる費用をどうするとか、具体的なことは何も決めていません。「身内の口約束なんだから、わざわざ書類にするまでもない」。Uさんは、そう考えていたのです。


 そして、ある日。Uさんは外出先で突然体調を崩し、そのまま帰らぬ人となりました。あまりに急な最期でした。


 残されたマロンの問題が、すぐに持ち上がります。連絡を受けた姪のSさんは、Uさんの死を悼みつつも、いざ「マロンを引き取ってほしい」と言われると、ためらいました。実は、Sさんの家は賃貸でペット不可。家族にアレルギーの人もいて、犬を飼える状況ではなかったのです。「叔母さんには悪いけど、うちでは無理です」。Sさんは、引き取りを固辞しました。


 口約束は、あったはずでした。けれど、それを裏づける書面も、世話の費用も、何の備えもありません。他の親族も疎遠で、誰も引き受け手が現れません。マロンの世話を法的に託された人は、ただの一人もいなかったのです。


 行き場の決まらないマロンは、誰の手にも渡らないまま、結局保護施設へ送られることになりました。10歳という年齢では、新しい飼い主が見つかる保証もありません。Uさんが何より案じていた愛犬の未来は、最も望まない形になってしまったのです。「Sに頼んだから大丈夫」——その口約束は、マロンを守ってはくれませんでした。

事例の解説

失敗の伏線

 このケースに潜んでいた失敗の原因は、次のとおりです。

  • ペットの世話を口約束だけで頼み、書面化しなかった
  • 引き受け手の事情(住環境など)を具体的に確認していなかった
  • 世話にかかる費用の手当てをしていなかった
  • 万一に備えた法的な仕組みを何も用意していなかった

失敗の解説

 このケースが示すのは、「ペットの将来」は、口約束では守れないという現実です。


 まず知っておきたいのが、法律上、ペットは「物(財産)」として扱われるということです。飼い主が亡くなると、ペットも相続財産の一部となります。しかし、相続人がいなかったり、いても引き取りを望まなかったりすると、その行き場は宙に浮いてしまいます。


メモ:ペットと相続の関係

  • 法律上、ペットは「物(財産)」として扱われる
  • 飼い主の死後、ペットは相続の対象になる
  • 相続人が引き取りを拒めば、行き場を失うことがある
  • 「世話を頼む」口約束には、法的な拘束力がない

→ 確実に託すには、書面による正式な取り決めが必要


 Uさんは姪に口頭で頼んでいましたが、口約束には法的な拘束力がありません。引き受ける側にも事情があり、いざとなって断られれば、それまでです。Uさんのケースのように、住環境などの事情を確認しないまま「身内だから」と頼ってしまうと、肝心なときに引き受けてもらえないことがあります。


 さらに見落としがちなのが、世話には費用がかかることです。エサ代、医療費、トリミング——ペットの一生には、相応のお金が必要です。引き受け手に費用の負担まで丸投げすれば、相手の負担は重く、断られる一因にもなります。


注意点

  • ペットの世話の口約束には、法的な拘束力がない
  • 引き受け手の事情(住環境・家族の状況)で、断られることがある
  • 世話の費用を手当てしないと、引き受け手の負担が重くなる
  • 備えがないと、ペットが保護施設へ送られることにもなりうる

 なお、ペットの引き取り先や費用の取り決め方は、状況によってさまざまで、ケースによるところもあります。確実にペットの将来を守りたい場合は、早めに専門家へ相談されることをおすすめします。

この事例を成功させる解決策

 このケースは、Uさんが元気なうちに、法的な仕組みでペットの将来を託しておけば、防ぐことができました。ペットのための備えには、主に次の方法があります。


① 負担付遺贈で、世話を条件に財産を遺す負担付遺贈(ふたんつきいぞう)とは、「財産を譲る代わりに、一定の義務(負担)を果たしてもらう」という遺し方です。たとえば「マロンの世話をすることを条件に、Sさんに○○万円を遺贈する」と遺言に書いておけば、世話の費用とセットでペットを託せます。財産が付くことで、引き受け手も負担なく世話を続けられます。


死後事務委任契約に、ペットの引き渡しを盛り込む — 亡くなった後の事務を生前に委任する契約の中に、「自分の死後、マロンを○○へ引き渡す」という内容を入れておく方法です。引き渡し先や世話の方法を具体的に取り決めておけるため、確実性が高まります。近年は、ペットの引き取り・終生飼養を担う団体や専門サービスもあり、こうした先を指定することも可能です。


見守り契約で、いざというときに備える — 一人暮らしの場合、飼い主自身が倒れたとき、ペットだけが家に取り残される事態も起こりえます。見守り契約で専門家などが定期的に連絡・訪問していれば、飼い主の異変を早期に発見でき、ペットの保護にもつながります。


ポイント:ペットのための備えのメリット

  • 負担付遺贈で、世話の費用とセットで確実に託せる
  • 死後事務委任で、引き渡し先や世話の方法を具体的に決められる
  • 見守り契約で、飼い主の異変時にペットも守れる
  • 引き受け手に費用の負担をかけず、安心して頼める
  • 大切な家族(ペット)の未来を、法的に守れる形にできる

 大切なのは、いずれの方法でも、引き受け手の同意と、費用の手当てをセットで整えておくことです。「頼んだつもり」で終わらせず、相手の事情も確認したうえで、書面で正式に取り決めておきましょう。ペットの将来を確実に守る設計は専門性が高いため、専門家へ相談されることをおすすめします。

まとめ

 「身内に頼んだから大丈夫」——その口約束だけでは、残されるペットの未来は守れません。法的な拘束力がなく、引き受け手にも事情がある。費用の手当てもなければ、いざというとき断られ、大切な家族が行き場を失ってしまうこともあるのです。


 特に、ペットと暮らすおひとりさま、親族と疎遠な方、自分の死後のペットの世話が心配な方にとって、負担付遺贈死後事務委任見守り契約といった備えは、決して「まだ早い」ものではなく、愛するペットを守るために欠かせないものです。


 備えができるのは、ご本人がしっかりしている「」だけです。何より大切な家族の未来を守るために、一度立ち止まって、確実な形を整えてみてください。少しでも気がかりなことがあれば、どうかお早めにご相談ください。