最期に立ち会えなかった同性パートナーのケース

相続・終活のよくある失敗パターンあるあるシリーズです。 これはフィクションですが、現実に十分起こりうるシチュエーションとオチです。ご自身や、身の回りのどなたかの状況と重ねながら読んでみてください。


【主人公の状況】


夫婦:同性パートナーと暮らす(法律上の婚姻関係はない)
子供:なし
年齢:Aさん59歳・Bさん52歳
終活状況:互いに相続権がないが、遺言などの備えはしていない

事例:CASE13

 AさんとBさんは、20年以上にわたって連れ添ってきた同性のパートナーです。Aさん(59歳)とBさん(52歳)は、若い頃に出会い、やがて一緒に暮らし始めました。日本では同性どうしの婚姻届は受理されないため、二人は法律上の夫婦にはなれませんでしたが、気持ちのうえでは紛れもない伴侶でした。


 二人は協力して、念願のマイホームを手に入れました。名義はAさん。けれど、頭金もローンの返済も、二人で力を合わせてきた、まさに「二人の家」でした。週末には庭の手入れをし、休みには旅行に出かける。穏やかで満ち足りた日々を、二人は重ねてきたのです。


 将来について、漠然と話すことはありました。「どちらかに何かあったら、残されたほうはどうなるんだろうね」。Bさんが、ふとそう口にしたこともあります。けれど、Aさんは「まだ元気だし、考えるのは早いよ」と笑って受け流していました。終活や相続の話は、どこか遠い世界のことのように感じていたのです。「気持ちでつながっているんだから、何とかなるだろう」。二人とも、心のどこかでそう思っていました。


 Aさんの親族とは、長らく距離がありました。Aさんが同性のパートナーと暮らしていることを、親族は快く思っていなかったのです。だからこそ、二人は自分たちの世界を大切に、静かに暮らしてきました。


 ところが、ある日。Aさんが突然、病に倒れます。


 容体は重く、Aさんは入院することになりました。Bさんは毎日のように病院へ通おうとしました。けれど、ここで思わぬ壁が立ちはだかります。Aさんの容体が悪化したとき、病院や親族から、「ご家族ではない方は」と、面会や看取りの場から遠ざけられてしまったのです。20年連れ添ったBさんもAさんの「家族」とは認められませんでした。


 そしてAさんは、Bさんが立ち会えないまま、息を引き取りました。葬儀は、関係を認めない親族が取り仕切り、Bさんは喪主はおろか、十分に見送ることさえできませんでした。最も近くにいたはずの人が、最期の場から締め出されてしまったのです。


 悲しみに暮れる間もなく、Bさんにさらなる現実が突きつけられます。Aさんは遺言を残していませんでした。そのため、二人で築いた自宅は、法律上の相続人であるAさんの甥が相続することになったのです。同性パートナーのBさんには、相続権が一切ありませんでした。


 やがて甥から、Bさんのもとに連絡が来ます。「あの家を相続したので、出ていってください」。20年間、二人で暮らし、慈しんできた我が家。その家から、Bさんは退去を求められてしまったのです。


 伴侶を失った悲しみの上に、住まいまで失う——。「気持ちでつながっているから大丈夫」と信じていたものが、法律の前では、何ひとつ守ってくれなかったのです。

事例の解説

失敗の伏線

 このケースに潜んでいた失敗の原因は、次のとおりです。

  • 「気持ちでつながっているから大丈夫」と、法的な備えを後回しにした
  • 同性パートナーには相続権がないことへの対策をしていなかった
  • 自宅がAさん単独名義で、Bさんを守る仕組みがなかった
  • 看取りや葬儀の場で、Bさんの立場を裏づける書面がなかった

失敗の解説

 このケースの根本にあるのは、「法律上の家族」でなければ、当然には守られないという、厳しい現実です。


 日本では現在、同性どうしの婚姻は法律上認められていません(自治体のパートナーシップ制度は広がっていますが(鹿屋市)、相続権など法律婚と同じ効果が当然に生じるわけではありません)。そのため、どれほど長く連れ添っても、同性パートナーは法律上の相続人にはなれません


メモ:法定相続人の範囲

  • 配偶者は常に相続人 ※法律婚の配偶者に限られる
  • 第1順位:子(孫)
  • 第2順位:父母などの直系尊属
  • 第3順位:兄弟姉妹(その子である甥・姪も)

→ 同性パートナーは、どれだけ長く連れ添ってもこの中に入らない → 遺言がなければ、財産は甥などの血縁の親族に渡る


 つまり、遺言がなければ、二人で築いた財産も、AさんがBさんに遺したいと願っても、自動的に血縁の親族へと渡ってしまいます。自宅が単独名義であれば、残されたパートナーは住まいを失いかねません。


 さらに深刻なのが、「家族」として扱われないことによる、生前・死後の困りごとです。入院時の面会や手術の同意、看取りの場、葬儀の喪主——これらの場面で、法的な裏づけがないと、パートナーは「家族ではない」として遠ざけられてしまうことがあります。


注意点

  • 同性パートナーには、遺言がなければ相続権がない
  • 単独名義の自宅は、相続人(血縁者)のものとなり、退去を求められることも
  • 入院・看取り・葬儀の場で、「家族ではない」と扱われるおそれがある
  • 関係を認めない親族との間で、残された側が孤立しやすい

 なお、医療現場での面会や同意の扱いは、病院や状況によって異なり、ケースによるところもあります。とはいえ、何の備えもなければ立場が極めて弱くなるのは事実です。こうした事態を避けるためにも、事前の備えが欠かせません。具体的なご事情がある場合は、早めに専門家へ相談されることをおすすめします。

この事例を成功させる解決策

 このケースは、Aさんが元気なうちに備えておけば、防ぐことができました。法律婚ができないからこそ、その代わりとなる備えを「契約」と「遺言」で作っておくことが何より重要です。


遺言書(包括遺贈)で、パートナーに財産を遺す — 相続権のないパートナーに財産を遺すには、遺言書が不可欠です。「全財産をBに包括遺贈する」と書いておけば、自宅を含めた財産をBさんに遺せます。包括遺贈とは、「財産の全部(または一定割合)をまとめて譲る」という遺し方で、これにより二人の住まいを守れます。形式不備や紛失を防ぐため、公正証書遺言(公証役場で作る遺言)が安心です。


死後事務委任契約で、看取り・葬儀まで託す — 亡くなった後の葬儀・納骨・各種手続きを、生前にパートナーへ正式に委任しておく契約です。これがあれば、パートナーが喪主として見送ることの裏づけになり、「家族ではない」と締め出される事態を防ぎやすくなります。


任意後見契約などで、判断能力低下後も支え合える体制を作る — 病気や認知症で判断能力が低下したとき、パートナーが財産管理や生活のサポートを担えるよう、元気なうちに契約しておく方法です。あわせて、医療現場での意思を示す書面を整えておくことも、いざというときの助けになります。


ポイント:同性カップルの備えのメリット

  • 遺言書包括遺贈)で、相続権のないパートナーに自宅や財産を遺せる
  • 死後事務委任で、パートナーが喪主として見送れる裏づけになる
  • 任意後見などで、判断能力が低下しても支え合える
  • 関係を認めない親族との間でも、書面が二人の絆の証になる
  • 「気持ちのつながり」を、法的に守られる形にできる

 法律婚という制度が使えない同性カップルにとって、これらの備えは「あればいいもの」ではなく、「ないと、お互いを守れないもの」です。遺留分(一定の相続人に保障された取り分)や税務(相続人以外への遺贈は相続税が割増になる場合があるなど)も関わるため、専門家を交えて、漏れのない備えを整えることをおすすめします。

まとめ

 「20年も一緒にいるんだから」「気持ちでつながっているから」——その確かな絆は、何ものにも代えがたいものです。けれど、法律の前では、書面のない関係は驚くほど無力なことがあります。遺言がなければ財産はパートナーに遺せず、契約がなければ最期に立ち会うことさえ難しい。それが、今の日本の現実です。


 特に、法律婚ができない同性カップル、事実婚のパートナー、血縁の家族には頼れない方にとって、遺言書(包括遺贈)や死後事務委任といった備えは、決して「まだ早い」ものではなく、お互いを守るために欠かせないものです。


 備えができるのは、お二人がしっかりしている「」だけです。大切な人を、そして大切な人に守られる自分を、最後まで守り抜くために、一度立ち止まって考えてみてください。少しでも気がかりなことがあれば、どうかお早めにご相談ください。